目的

■はじめに

「厳格なエネルギー制限を望む患者も、極端な糖質制限を望む患者もいない。大部分の糖尿病患者はなるべく少ない制限で、美味しい食生活と健康な身体を保持したいと願っている」と私たちは考えている。食品交換表に基づく現行の栄養療法の遵守率はきわめて低く、多くの糖尿病患者は、栄養バランスとエネルギー制限によるやや硬直化した指導に対して不満を抱いている。私たちはカーボカウントを、『エネルギー原理主義』とも『糖質原理主義』とも一線を画す、柔軟な栄養療法と位置づけている。私たちはこうしたカーボカウント指導の実践を普及することによって、すべての2型糖尿病患者が栄養バランスに配慮したカーボカウント指導を受けられる時代を創造することをめざしている。

「食品交換表versus カーボカウント」から 「食品交換表and カーボカウント」へ

ここ数年、しばしば「食品交換表 vs カーボカウント」という図式の討論やディベートが紙面を賑わせている。確かに、それぞれに一長一短があることは事実である。しかし、だからといって、which is better? という二者択一を迫る二元論的発想から生まれる不毛な論争を続けていても、新しい栄養療法の意味付けは生まれてこない。そもそもこれら2つのアプローチはどちらも必要なものである。そろそろ二者択一的論争に終止符を打って、 2つの栄養療法が適した病態、対象について議論すべき時代を迎えている。Which is better for you? という問いこそが、患者が求めている問いではないかと考える。すなわち、「食品交換表 versus カーボカウント」から「食品交換表andカーボカウント」の時代を創っていかなければいけないと思う。患者の病態の差だけではなく、患者の希望や社会的リソースの多寡によって、柔軟に栄養療法が選択されるべきだろう。

「食品交換表 vs カーボカウント」という対立は、実は医療者の患者に対するスタンスの違いから生まれている

食品交換表がすべての患者でうまく機能するのであれば、このような議論は生まれないはずである。食品交換表に固執する医療者の中には、患者の血糖コントロールが改善しない理由を、患者側の責任に転嫁している人(「患者のノンコンプライアンス」に起因するという考え)が少なくない。それに対して、カーボカウントを推す医療者の多くは、患者の血糖コントロールが改善しない理由を、自分たちの指導方法の欠陥に求めている人が多い。カーボカウント推進派にとって、食品交換表指導の最大の問題は、糖尿病の病態(インスリン分泌低下優位、インスリン抵抗性優位)の相違や肥満の有無に関係なく、「エネルギー制限」や「栄養バランス」の遵守を求める、やや硬直した指導が展開されているという現実である。その結果、多くの患者が「医療従事者は患者の価値観や個人の嗜好、あるいは患者が置かれた厳しい現実生活を十分に考慮せずにカロリーを守ることばかりを求める」という誤解を抱いている。栄養指導の現場はもっと心理社会モデルに基づく、患者中心の実践を取り入れるべきであろう。

カーボカウントは従来のエネルギー制限食を否定するものではなく、補完する役割を担う(2型糖尿病患者に対する基礎カーボカウントの意義)

2型糖尿病患者に対する基礎カーボカウントの導入の意義として、以下の3点を挙げることが出来る。

第1に、患者によって、エネルギー制限を優先するのか、糖質管理を優先するべきかを個別に決定する。食生活の質を落とし、遵守率の低いエネルギー制限の適応にはもっと慎重であるべきだと考える。

第2に、われわれが考えるカーボカウントは原則 対エネルギー比50〜60%の糖質比率を遵守する方法と定義している。例えば、非肥満者には50%の糖質比率を、肥満者には60%の糖質比率として、従来の栄養療法が遵守してきたPFCバランスを尊重しながら、基礎カーボカウントを取り入れ、1食の糖質摂取量の厳格な遵守を求めることで、「血糖管理」と「栄養療法の個別化」を促進することができる。

第3に、さらに基礎カーボカウント指導と3日間・7ポイント血糖測定を組み合わせることで、非インスリン2型糖尿病患者に対する薬物療法の最適化プログラムに活用することが可能になる。

エネルギー制限を前提とした現行の栄養療法の遵守率はきわめて低い。栄養療法の遵守率を高めるためには、やや禁欲的であった従来の指導法に改変を加えた代案があっても良いと考える。それが、私たちが提案するカーボカウントである。それは決して従来のバランス食指導を否定するものではなく、補完する役割を担うものと考えている。

私たちの希望は、すべての2型糖尿病患者がPFCバランスを尊重したカーボカウント指導を受けられる時代を創ること

現在、私たちはすべての2型糖尿病患者にカーボカウント指導を行っており、確かな手応えを感じている。大切なポイントはカーボカウント指導を行う前に、日本の食文化を考慮した日本版Healthy Food Choiceの指導をしっかりと行うこと。次に非インスリン療法患者に対しても可能な限りSMBGを導入し、食後血糖値に応じて対エネルギー比50〜55%の基礎カーボ指導を厳格に行うことである。50〜55%の基礎カーボ指導を徹底すれば、PFCバランスを遵守した栄養療法であっても血糖管理は可能であることを強調したい。また同時にSMBGの導入によって、患者が必要以上に糖質制限へ向かわないように、患者の血糖パターン分析から薬剤最適化を図るStructured testingを同時に指導していくことが重要と考えている。

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