バイオ・サイコ・ソーシャル糖尿病研究所(BioPsychoSocial Diabetes Institute)

2007年、勤務医からフリーの医師に転身するとき、『糖尿病心理研究所』という個人法人を設立して、執筆と講演活動を行ってきました。しかし、その後の自分の関心領域の拡大・変化に伴い、「名が体を表していない」という居心地の悪さをずっと感じていました。「もっと医療人類学的な意味を含んだ名前に変更したい」、そう思っていました。そこで、この度『バイオ・サイコ・ソーシャル糖尿病研究所』(BioPsychoSocial Diabetes  Institute)へ名称変更を行う予定です。この名前は、「生物心理社会モデル」(Bio〔身体〕-Psycho〔心理〕-Social〔社会〕Model)に基づく糖尿病医療の推進および啓蒙活動を行うという、これからの私自身のミッションを名称に託したものです。すなわち、生物医学ー心理学ー社会学および文化人類学を統合した診療を意味します。

これまで、良心的な多くの医療者が「患者中心」あるいは「エンパワーメント」という言葉を使って、患者中心医療をめざしてきました。にもかかわらず、多くの医療者は「患者中心」に立てずに苦しんでいます。なぜでしょうか?それは「生物医学モデル」(バイオ)に拘束されているからであると、私は考えます。「間食はいけない」「お酒もほとほどに」「もっとSMBGをたくさん行って!」「それが、あなたの糖尿病を改善することなのよ」・・・。「私たちは患者のことを思って指導しているのに、患者は耳を貸さず、指示に従ってくれない」と彼らは嘆きます。そして、そうしたアプローチの限界が明らかになると、その次に「心理学的アプローチ」(サイコ)が登場しました。「変化ステージモデル」、「認知行動療法」「コーチング」などです。しかし、それでも不十分です。今の糖尿病医療にもっとも欠落しているのは「社会学的アプローチ」(ソーシャル)だと、私は考えています。ソーシャルには患者の「価値観」やその患者が所属する「文化圏」も含みます。

バイオ・サイコ・ソーシャルなアプローチは、さまざまな患者の心理的特性、価値観、さまざまな文化的な影響をも尊重するものです。従って、ときに歯切れの悪い指導が生まれます。厳格な医療者は言います。「患者が酒を飲むなんて、大きな自己矛盾だ!」「糖質制限食は決してやってはいけない方法だ」。でも、バイオ・サイコ・ソーシャリストは「お酒はときにとても有効です。良いとか悪いとかで、論じられるテーマではありません」「糖質制限食は一部の人々にとって、大きな救いであり、良い・悪いではなく、糖尿病者としての、その方の人生/生活全体の有り様の変化を見ながら、判断したらどうでしょうか?」と、このように歯切れが悪いです。それでもなお、我が国に患者中心主義、自己決定共有アプローチを推進するため、私は「バイオ(生物医学)」「サイコ(心理学)「ソーシャル(社会学・文化人類学)」を統合しながら、「ひとり一人に合った解を求める医療を推進していきたいと思います。

「バイオ・サイコ・ソーシャル糖尿病研究所」として、これから執筆および講演活動を行っていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。

 

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