“患者中心”とは、どう患者と向き合うことなのか?

「患者中心医療」について考えをまとめてみました。医療人類学の“illness” の概念など難しい議論は横に置いて、ここに示したような「リアルワールドにおける患者中心医療」について議論する場をもてたら良いなぁと、今感じています。同じA1c、同じBMI、同じ罹病期間、同じ年齢、共通の病態でも、ひとり一人の患者に合わせて治療はカスタマイズされるべきだと思し、それによってアウトカムは決まってくる筈です。
ナラティヴ・アプローチ(NA)について説明する前にまず「伝統的な糖尿病診療」と「患者中心主義」を比較してみたい(表1)。前者はコントロール理論、後者は自己決定理論またはエンパワーメント・アプローチと言い換えることもできます。自己決定理論はインフォームド・チョイスに基づく自己決定を重視します。このため良好な医師-患者関係が必須条件となるので、医師−患者関係が重視されます。これに対して、コントロール理論では医師−患者関係への配慮が希薄である点が大きな相違点と言えます。

 近年、糖尿病診療においてpatient-centered approach、decision-sharing approachによって治療を個別化することの重要性が叫ばれています#2。こうした流れを受けて、我が国においても患者中心医療という言葉が使用されるようになりました。しかし、その内容は米国糖尿病学会(ADA)/欧州糖尿病学会(EASD)合同委員会が提唱する患者中心主義とはやや異なっているように思われます(図1)。両者の違いは、我が国においては年齢、罹病期間、BMI、HbA1cなど統計解析可能な患者の属性を中心に議論されているのに対し、ADA/EASDの提唱する患者中心主義は自己管理能力、動機付けの高さ、社会的リソースの多寡、患者の食文化、人生における優先順位など心理社会的条件を含めた全人医療をめざしている点にあります。すなわち、我が国があくまでエビデンスワールドにしか存在するしない不特定多数の患者の治療について議論しているのに対し、ADA/EASDは「患者は社会的な存在である」ということを前提に、あくまでリアルワールドを生きる個々の患者に最適な医療をめざしていると言えると思います。

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