EBMの実践ツールとしての「基礎カーボカウント」の意義

■エビデンスをEBMと勘違いしている日本の食事療法の議論

EBMとは「個々の患者のケアに関わる意志を決定するために、最新かつ最良の根拠を、一貫性を持って、明示的で、思慮深く用いること」と定義されている(Sakett D.J:1996,BMJ)。一方、エビデンスとは、あくまでも確率論に基づく、限定的な情報であり、これを実際の個別の実践に適応する方法論がEBMである(斎藤清二著『関係性の医療学』)。つまり、EBMとは、個々の患者の医学的なニーズ、文化的な嗜好や能力にも配慮し、最適な医療を提供していく方法論であり、そこはサイエンスとアートが交錯する領域であることが分かります。こうした観点から、我が国の糖尿病食事療法における議論を概観したとき、エビデンス論争に終始し、個々の患者に最適化していく議論が不足していることに気づきます。

■我が国で「基礎カーボカウント」の評価が低い背景

我が国の糖尿病食事療法の議論を二分している「エネルギー制限食」「糖質制限食」は多くのエビデンスをもっていますが、同時に「遵守率の低さ」や「慢性腎臓病患者への長期的な安全性」といった問題点が指摘されています。一方、我が国における「基礎カーボカウント」をめぐる状況はといえば、エビデンスの優劣を重視する日本の専門学会からの評価は低く、殊更エビデンスの優劣を重視する立場の医師からは「基礎カーボカウントにはエビデンスがない!」という批判にも曝されています。米国糖尿病学会(ADA)のホームページをみれば、米国では糖尿病食事療法と言えば「基礎カーボカウント」であることが分かります。こうした日米の相違は、どうして生まれるのでしょうか?その答を、「個々人の文化的嗜好、ヘルス・リテラシーや基礎学力に基づいて、さらには行動を変化させる積極性や能力にも配慮して、個々の患者の栄養学的なニーズに応えること」という2013年度のADAの栄養勧告の指導理念の中に見つけることができます。私は我が国でも、こうした議論を積み上げていくことが必要であると考えています。その過程で、エネルギー制限でも、糖質制限でもなく、患者の病態や文化的嗜好に合わせて、個々の患者に最適な「炭水化物比率」を提案する基礎カーボカウントの重要性が再評価されることを願っています。

■これからに向けて

私は今後も、エネルギー制限食や糖質制限食のエビデンスを踏襲しながら、個々の患者の病態や文化的嗜好に配慮しながら、最適な食事療法を提供するという「EBMの実践ツールとしての『基礎カーボカウント』の意義」を、この国に広めていきたいと思っています。日本糖尿病学会に正式な指導ツールとして認知してもらうためにも、当面炭水化物比率 50〜60%にこだわって活用していくことを提案したい。